Project
牛込柳町の集合住宅
Scope
Planning
Design
都市の窮屈さを、豊かな暮らしに



















本計画は、不動産デベロッパーによる集合住宅の新築計画である。計画地は都心へのアクセスに優れた住宅地に位置し、大通りから一歩奥へ入った静かな環境にある。周辺には戸建住宅やマンションが密集して建ち並ぶ一方で、お寺や墓地なども点在し、都市の中に落ち着きや風情を感じさせる街並みが形成されている。利便性と住環境が共存するこの場所には、長く暮らす老夫婦から、新たな生活を始める単身者やファミリー層まで、多様な世代が暮らしている。その街並みを見つめながら、ここにどのような人々が暮らし、どのような日常が積み重なっていくのかを考え始めた。ここでは、均質な住戸を反復するのではなく、異なる環境や距離感を持つ住空間が混在し、多様な暮らし方を受け入れる“街のような集合住宅”をつくることが、この場所らしい住まいのあり方ではないかと考えた。一方で、このエリア特有の課題も存在している。道路幅は狭く、建物同士の距離も近いため、視線の干渉や圧迫感が生じやすい環境である。住まいに求められる「解放感」や「プライバシー」を、限られた敷地条件の中でどのように確保するかが、本計画における大きなテーマでもあった。そこで本計画では、都市の窮屈な環境において、新たに豊かな暮らしを育める住環境を創出したいと考えた。都市の窮屈さとは、単に物理的な狭さではなく、視線や距離感が制限されることによって生まれる暮らしの窮屈さでもある。ここでは、光や風、視線の抜けを生み出し、密集した都市環境の中に余白と広がりをつくり出すこと、住戸ごとに異なる距離感や環境を生み出し、それぞれのライフスタイルに応答すること。都市の制約を否定するのではなく、そこに新たな価値を見出しながら、多様な暮らしを受け止める集合住宅のあり方を模索した。 計画にあたっては、事業性を成立させるため、限られた敷地の中で最大限容積率を確保する必要があった。同時に、コストを抑えるため、コンクリートボリュームを可能な限り小さくすることも求められた。また、北側隣地への日照を確保するため、北側高度斜線や日影規制への対応も必要となった。これらの条件を整理していくと、建築は日影規制の制約を受けない高さ10m以内に4層を構成しながら、北側へ段階的にセットバックさせる構成が合理的であることが見えてきた。北側セットバックによって各階に異なる距離感が生まれ、異なる形状が積層する住環境が生まれている。しかし、周辺建物との距離が近いこの環境では、開口部を自由に配置することは難しく、隣地との離隔を確保しやすい北側と、道路側へ視線の抜けを得られる東側に開口を集約する必要があった。さらに、容積率を成立させるためには1階にも住戸を配置する必要があり、歩行者や隣接住戸との視線干渉を避けながら、いかに広がりある住空間をつくるかが課題となった。そこで1階住戸では、地下階へと空間を連続させることで、内部に奥行きと広がりを持つ住空間を形成している。更に吹抜けを設けることで地上階の光や気配を地下へと柔らかく繋ぎながら、都市の密集環境の中でも落ち着きのある居場所を生み出した。一方、上層階でも空への抜けを活かした3・4階のメゾネット住戸を計画し、上下方向へと広がる立体的な住空間を構成している。これにより、コンパクトな住戸から、奥行きや高さを持つ住戸まで、それぞれ異なる環境や暮らし方を受け止める多様な住戸構成を実現した。また、周囲の視線と正対しないよう、開口部や壁面を少しずつ雁行させながら配置している。この“ズレ”によって生まれた余白が、光や風、視線を斜めに抜けさせ、限られた敷地条件の中に奥行きのある空間体験と雁行壁によって視線の窮屈さを解消した。こうした多様な住戸構成と限られたボリュームの中での空間効率を成立させるため、壁式構造は単なる合理的な構造選択ではなく、住戸ごとに異なる環境をつくり出す壁そのものを建築の骨格とする考え方でもあり、限られたボリュームの中で居住空間を最大化するための選択であった。 当該地では建物同士の距離が近く心地良い街の風景が形成しずらい状況にあった。地上4層にもなる建物は壁面が雁行し、北側は各層ごとにセットバックした形状である。ここでは、一つの大きなコンクリートの塊としてではなく、各層が少しずつ異なる環境を抱えながら積層する建築の姿を表現するため、多様な住環境が積層する建築の姿を街へ表現した。これにより、周囲への圧迫感を和らげると同時に街に新たなリズムを生み出している。 地下へ広がる住戸、街へ広がる住戸、空へ広がる住戸。それぞれ異なる環境を持つ住戸が隣り合うことで、一つの建築の中に多様な暮らしの風景が共存する。都市の制約から生まれた小さな“ズレ”は、光や風、視線の抜けを生み出し、それぞれ異なる環境を持つ住戸を育んでいる。それは、都市の窮屈さを解消するための建築ではない。都市の制約そのものを豊かな暮らしへと転換することで生まれた、新しい都市居住のかたちである。
竣工|2025 所在地|東京 用途|集合住宅 構造・規模|RC壁式造・地下1地上4階建 敷地面積|131,63㎡ 延床面積|370.46㎡ クライアント|リアルパートナーズ株式会社 施工|株式会社マゴメ工務店 構造|AIG 設備|GE設備 設計・監理|team raw row 写真|大竹央祐


